最終更新日:2024.2.29
「朝は忙しくてトイレに行く時間がない」「トイレのタイミングを逃しているうちに、便意がなくなった」「子どもの世話に追われてトイレでゆっくりできない」
そんな人は、もしかすると便意を感じないタイプの便秘になっているかもしれません。
便意がないタイプの便秘は、気付かないうちに便秘を悪化させる可能性があります。
今回は、便意を感じない便秘の特徴や原因、便秘を解消するための生活習慣や食生活などについて詳しく解説します。
「便意がないからトイレに行かない」人は、健康リスクが上昇している危険性も!思い当たることがある人は、この記事を参考に生活習慣や食生活を見直してみませんか。
この記事の執筆者
グリーンハウス株式会社
食品保健指導士・管理栄養士
古本 楓
食品保健指導士・管理栄養士としての知識を交えながら、「便秘」「腸活」についての情報をお届けいたします。
【資格】
・公益財団法人 日本健康・栄養食品協会
食品保健指導士
・管理栄養士
目次
便秘の悩みを抱えている人は多く、厚生労働省が公表した「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」によると、人口1000人に対して全体の35.9%、65歳以上では71.2%が便秘の症状があると訴えています。
便通は個人によって排便がない日数や排便量、満足感などの差が大きく、明確に「〇日以上排便がなければ便秘」「〇g以上出なければ便秘」という数値はありません。
しかし、慢性便秘症診療ガイドライン2017では、「便秘とは本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。
一方で、正常な排便については具体的な数値が目安として示されています。
正常な排便とは
では次に、排便のメカニズムについて解説します。
食べ物は食道・胃・十二指腸と小腸で消化・吸収され、大腸に運ばれます。その後、4つの段階を経て便として体外へ排出されます。
食べ物が空っぽの状態の胃に入ると、胃結腸反射によって蠕動運動が引き起こされます。すると、S状結腸あたりにある便が水分などを吸収されながら大腸や直腸へ運ばれます。
特に朝食後に起こりやすいため、目覚めてすぐにコップ一杯の水を飲むと蠕動運動の促進に効果的です。
便が直腸へ到達すると、内肛門括約筋が反射的に弛緩して便意を催します。
脳で瞬時に排便可能な状況かを判断し、排便できない状態であれば外肛門括約筋を収縮させて便が出ないようにします。
排便できる状況が整うと、排便動作に入ります。
この過程のいずれかが障害された場合に、便秘や便失禁が生じます(※)。
※:須藤紀子. "高齢者の排尿・排便障害." 日本老年医学会雑誌 49.5 (2012): 582-585.
ひと口に「便秘」と言っても、特徴はさまざまです。便秘の原因によって、細かく分類されています。
大腸の形態的な病的変化による便秘
大腸管の狭窄によって物理的に便の通過が阻害されることで起こる
大腸管の狭窄はないもの、特徴的な形態変化をきたす器質的疾患によって生じる
大腸管が拡張して糞便の移送に支障が生じて排便回数が減少する
直腸に形態的変化が起こり、直腸から体外への糞便排出が十分にできない
大腸に形態的な変化はないものの、排便機能に何らかの障害が起こって引き起こされる
排便回数や排便量が減少し、過剰な量の糞便が大腸に貯留する。病態によってさらに2つに分類される
大腸の糞便移送能が低下しているため排便回数が減少し、大腸に多量の糞便が貯留する
強い腹部膨満感がある。原因は特発性(原因不明)、症候性、薬剤瀬など多岐にわたる
大腸の糞便移送能は障害されていないにもかかわらず、排便回数が減少する
糞便の量も減って保水力が低下し、硬い便になって排便困難症状も伴う
原因は食事摂取量の減少や食物繊維不足など適切ではない食事習慣によることが多い
直腸や肛門の排便機能低下によって、糞便を量的にも質的にも十分に排出できない。排便困難感や残便感が生じる
排便回数や排便量は減少していないが、直腸内の糞便がスムーズに排出されない状態。便が硬い
機能的な障害によって直腸内の糞便を量的にも質的にも十分に排出できない状態
直腸感覚の低下や直腸収縮運動の減弱、腹圧低下などの機能障害が原因となる(※)
上記のうち、「便意がない便秘」は機能性便排出障害の症状である“直腸感覚の低下”であり、「直腸性便秘(習慣性便秘)」と呼ばれる状態です。
※:尾髙健夫. "I. 慢性便秘の定義と分類." 日本内科学会雑誌 108.1 (2019): 10-15.
直腸性便秘(習慣性便秘)は、主に便意を我慢することで引き起こされます。
便意を催してもトイレに行けない状況だったり、痔による排便時の痛みを回避したりするために我慢することが続くと、次第に排便反射(便意)が鈍くなり、便意の消失につながります。
すると、便が直腸へ来ても便意が起こらず、本来は排出すべき便がたまっていることに気付きません。
その間に便に含まれる水分が腸管で過剰に吸収され、便がカチコチに硬くなって、排出困難な状態に。いきんでも簡単には出なくなり、便秘の悪循環に陥るのです。
排便反射は、加齢や下剤の常用でも低下します。そのため、高齢者や便秘改善のために便秘薬を頻繁に飲んでいる人は、特に注意が必要です。
便意を感じないタイプの便秘は、気付かないうちに便秘が悪化する傾向があります。
その結果、思いもよらない重篤な事態を招くことが少なくありません。
米国で約5,000人を対象に便秘患者と非便秘患者を15年間追跡した調査では、便秘患者は非便秘患者に比べて20%以上死亡率が高いことが報告されました(※1)。
ここでは、慢性便秘によって引き起こされるリスクが高い代表的な疾患を挙げていきます。
便秘によって腸内の有害物質が体内に長く留まると、細胞の変異を引き起こす可能性があります。
その結果、大腸がんのリスクが増加する可能性が高くなるでしょう。
便秘が続くと、便が腸内にとどまる時間が長くなり、便に含まれる水分が腸で過剰に吸収されて便が硬化。
カチコチになった硬い便が腸管に詰まると腸閉塞が発生し、急性の腹痛や嘔吐などの症状が起こるケースも稀にあります。
加齢とともに便秘の症状を抱える人は増加します。
高齢者の慢性的な便秘では、排便時の努責(いきみ)によって血圧が急上昇し、心筋梗塞をはじめとした心血管疾患を引き起こすリスクが高いことが指摘されています(※2)。
便秘によって硬くなった便を排出する際、過度な圧力が直腸や肛門にかかることで痔の発症リスクが上昇。
また、便秘になると自律神経が乱れて血行不良になり、痔核が形成されやすくなります。
便秘によって腸の動きが低下して便が蓄積されると、盲腸周辺で炎症が生じやすくなります。
これが慢性的に続くと、盲腸(虫垂炎)が発生する可能性があります。
※1:ICHIKAWA, Yuki. "便秘について-便秘治療の進歩.
※2:中島淳, 大久保秀則, and 日暮琢磨. "1. 高齢者の慢性便秘症の病態と治療." 日本老年医学会雑誌 57.4 (2020): 406-413.
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便意がないタイプの便秘を治すために効果的な方法をご紹介します。
便秘改善には、生活習慣や食生活を見直すことが大切です。今日から、早速始めてみましょう。
たとえ便意がなくても、決まった時間にトイレへ行って便器に座ることを習慣化しましょう。
朝食後30分以内は、排便しやすいタイミングです。決まった時間にトイレへ行くことで、体内リズムが整って便秘改善につながります。
ただし、3分以上軽くいきんでも便が出ない場合は無理に出そうとせず、夕食後に再びトイレへ行ってみましょう。
強いいきみ(努責)は血圧の急上昇や、痔を招く危険性があります。
食物繊維は便通を整えるために欠かせない栄養分です。
レタスやキャベツ、ケールといった緑黄色野菜をはじめ、キウイフルーツやバナナなどの果物、玄米や全粒粉のパンなども便秘解消に役立ちます。
また、便秘の時はおやつとしてドライプルーンや干しイチジクを食べるのもおすすめです。
便が腸内をスムーズに移動するために、脂質は欠かせません。
オリーブオイルは消化・吸収されにくいオレイン酸が豊富に含まれるため、腸まで届いて便通を促進します。
食物繊維が豊富に含まれる全粒粉やライ麦を使ったパンにつけて摂れば、さらなる便秘解消効果が期待できるでしょう。
牛乳に含まれる乳糖から作られる難消化性オリゴ糖の「ラクチュロース」には、大腸のビフィズス菌を増やして腸内環境を良くする作用があります。
ラクチュロースには、乳製品に含まれるカルシウムの吸収率を向上させる働きもあるため、加齢による骨粗しょう症や骨折予防にも役立つでしょう。
食生活と腸内細菌の関係について調査した研究で、海藻類を1日1回以上食べる人は腸内細菌に善玉菌が多いことが分かりました。
海藻の摂取が、腸内環境に良い影響をもたらしている可能性が考えられています(※)。
海藻類は食物繊維が豊富であり、便秘改善にも役立つ食べ物です。
低カロリーかつ少量でも満腹感を得やすいため、ダイエット中にもぴったりな食材と言えるでしょう。
しかし、海藻類にはヨウ素(ヨード)が含まれているため、食べ過ぎると甲状腺の病気にかかるリスクが上昇する可能性も。
海藻サラダや味噌汁などで、他の食品とともにバランス良く適量を摂ることをおすすめします。
便意を感じない便秘の場合、ストレスが原因であることも少なくありません。ストレスがたまると、自律神経が乱れて興奮・緊張状態を持続させる交感神経が優位な状態に。
夜になっても交感神経が活発な場合、体をリラックスした状態にする副交感神経へ切り替わりません。
腸の蠕動運動は、副交感神経が優位な状態の時に促進されるため、ストレスが蓄積すると腸が動かず便秘になります。
アロマテラピーや入浴、ヨガなどリラックスできる方法や趣味などを通じて、ストレス解消を心掛けましょう。
※:入来寛, et al. "通所リハビリテーション利用高齢者における食生活習慣と腸内細菌叢との関連." 栄養学雑誌 81.5 (2023): 260-268.
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今回は、排便を我慢することによって引き起こされる「直腸性便秘」について解説しました。
排便を我慢すると、直腸に溜まった便が次第に硬くなり、排便困難な状態となって腸の正常な機能が阻害されるようになります。
便意を感じないタイプの便秘を改善するのに最も大切なのは、便意がなくても決まった時間にトイレへ行くことです。
また、自律神経のバランスを整える方法を取り入れることで、便秘改善効果が期待できるでしょう。
しかし、便秘の症状が長期にわたって続く場合や、腹部に痛みを感じる場合は、医師や医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。