最終更新日:2024.5.7
「宿便(しゅくべん)」という言葉を、見たり聞いたりしたことがある人も多いのではないでしょうか?
「宿便を出すと痩せる」「宿便剥がしはダイエット効果がすごい」など、宿便を出すことで痩せられると言っているネット記事も少なくありません。
そこで今回は、宿便の特徴や身体へ与える影響、宿便を出す「宿便剥がし」などについて、管理栄養士としての知識を織り交ぜながらお伝えします。
この記事の執筆者
グリーンハウス株式会社
食品保健指導士・管理栄養士
古本 楓
食品保健指導士・管理栄養士としての知識を交えながら、「便秘」「腸活」についての情報をお届けいたします。
【資格】
・公益財団法人 日本健康・栄養食品協会
食品保健指導士
・管理栄養士
目次
宿便とは、「便秘によって消化器内に内容物が滞留していること」であり「通常の排便では排泄できない消化器官内の貯留物を想定したもの」とされています(※1)。
また、「大腸憩室」(大腸の壁の一部が外側に飛び出してくぼんだ部分)に詰まった便も「宿便」と呼ばれる場合があります。
大腸憩室に便が詰まると便秘になりやすくなり、さらに「大腸憩室炎」という炎症を起こしたり、出血したりする可能性があります。
便は腸内に滞留する時間が長いほど黒くなる傾向があるため、宿便も濃い茶色や黒っぽい色をしていることが多いようです。
また色以外の特徴として、腸内環境の悪化により悪臭が強くなる傾向があります。
「宿便は嘘」という情報をネットで見かけることもあるかと思います。はたして宿便は嘘なのでしょうか?
「宿便」という言葉は医学用語としても使用されていて、「宿便」と付く疾患名も存在しています。
例えば「宿便性大腸穿孔」。非常にまれな疾患で、腸内に停滞した糞塊や硬便によって大腸に圧迫壊死が生じ、穴があいてしまう病気です。
便秘傾向にある高齢者などが罹患しやすく、かつては死亡率が50%前後と高い病でした。しかし近年は救命率が向上し、発症後24時間以内の手術例では死亡率3%にまで減少しています。
宿便性大腸穿孔の前段階にあたる疾患が「宿便性潰瘍」です(※2)。
その他にも、固い便が詰まることによって引き起こされる「宿便性腸閉塞」「宿便性閉塞性大腸炎」といった疾患があります。
宿便というと「腸壁にヘドロのように大量にこびりついたもの」というイメージがあるかと思われます。
実際に、便通がありつつも腸の内容物が腸管壁に比較的強固に附着するケースがあります(※3)。
しかし、腸壁にこびりついた便が大量に、そして長期間残るというのはあまり現実的ではないと言えます。
大量に残る便という意味では、宿便は便が排出されずに腸内に滞留した「滞留便」を指すと捉えてよいでしょう。
滞留便は水分が吸収されて固くなるだけでなく、腸内環境も悪化させる原因となるため、ますます便秘が進行するという悪循環を招きます。
※1,3:寺澤捷年, et al. "宿便についての一考察." 日本東洋医学雑誌 65.4 (2014): 309-312.
※2:村上三郎, et al. "血液透析治療中に繰り返し発症した宿便性大腸穿孔の 1 例." 日本大腸肛門病学会雑誌 57.1 (2004): 1-6.
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「宿便を排出すると痩せる」「宿便剥がしがダイエットに効果的」など、宿便を出す=痩せると認識させる情報がネット上でも多く見受けられますが、宿便を除去すると本当に痩せるのでしょうか?
確かに、滞留していた宿便を出すとその重さと体内の水分が減るため一時的に体重は減少しますが、脂肪が燃焼したのではないため実際に痩せた訳ではありません。
水分補給をしたり、食事をしたりすればすぐに元通りでしょう。
ただし便秘は肥満の原因になりますので、滞留便を出すことは太るのを防ぐためには効果的と言えます。
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宿便は、便秘によって腸内に便が滞留することでたまっていくと考えられます。
便秘の発生には、腸内環境が大きく影響しています。
腸内細菌の種類
腸内環境を構成する腸内細菌の理想的なバランスは、日和見菌が70%、有用菌(善玉菌)が20%、有害菌(悪玉菌)が10%とされています。
悪玉菌の増加は、腸の動きを鈍らせることで便秘の原因となります。また腸内で腐敗産物(アンモニア、硫化水素、アミン、フェノール、インドールなど)や細菌毒素、発がん性物質、二次胆汁酸などの有害物質を生成します。
有害物質は腸管自体に障害を与えるだけでなく、一部は吸収されて肝臓や膵臓、心臓など全身の臓器に障害を与え、がんの発症や動脈硬化、高血圧、免疫力低下など生活習慣病の発症原因になる危険性もゼロではありません(※1)。
そうした事態を招かないためにも、腸内に善玉菌を増やして悪玉菌を減らすことが、便秘や生活習慣病の予防にきわめて重要です(※2)。
※1,2:光岡知足. "腸内フローラの研究と機能性食品." 腸内細菌学雑誌 15.2 (2002): 57-89.
宿便をきれいに出す効果が期待できる食べ物をご紹介します。宿便がたまる大きな要因である便秘は、普段の食生活で自然に解消するのが理想的です。
便秘解消に効果的な食べ物を積極的に摂って、毎日快便を目指しましょう!
大腸内の善玉菌のうち、実に99.9%をビフィズス菌が占めます(※1)。
ビフィズス菌には短鎖脂肪酸の1つである酢酸(さくさん)を作り出し、悪玉菌の増殖を抑え腸のぜん動運動を促進させる働きがあります。
ビフィズス菌を便秘傾向の男女55名(男性12名、女性43名、平均年齢31.6±7.2歳)が継続摂取する試験において、排便の日数と回数が増えたという研究結果が報告されました(※2)。
宿便解消のためにヨーグルトやサプリメントを摂る際は、ビフィズス菌が入っているものを選ぶのがおすすめです。
一度水を沸騰させてから50℃程度まで冷ました飲み物が「白湯」です。
白湯には内臓を温めて、動きを活性化させる作用があります。飲むのにおすすめのタイミングは、起きてすぐ。白湯を飲むことで腸が動き始め、排便が促進されます。
梅干しには胃腸の動きを活発にする「クエン酸」や、排便をスムーズにする水溶性の食物繊維「ペクチン」、便を柔らかくして排出しやすくする「マグネシウム」など、便秘解消に効果的な成分が含まれています。
こんにゃくは古くから「腸の砂おろし」と呼ばれ、便秘解消に効果的な食べ物として親しまれてきました。
こんにゃくの主成分であるグルコマンナンは食物繊維であり、こんにゃくに含まれる水分とともに便を適度な柔らかさにして、排便しやすい状態にします。
また、グルコマンナンは腸内細菌のエサとなるため、善玉菌を増やして腸内環境を整える作用も期待できます。
ゴボウには、オリゴ糖と食物繊維が豊富に含まれています。
食物繊維が便秘解消に効果が高いことは有名ですが、実はオリゴ糖にも整腸作用があります。
ある研究では、オリゴ糖を摂取した場合、腸内に善玉菌が増加して腸内フローラのバランスが改善され、大腸内pHが低下して糞便が柔らかくなるという結果が明らかになりました(※3)。
善玉菌を増やし腸内環境を改善するためには、善玉菌を含む食べ物だけでなく、善玉菌のエサとなる食べ物を併せて摂ることが有効です。
オリゴ糖は善玉菌であるビフィズス菌や乳酸菌のエサになることで、増殖の役に立つのです。
また、オリゴ糖は胃や小腸で分解されずに大腸まで届き、腸内腐敗菌の増殖を抑えて下痢・腸炎を予防するほか、腸内環境を清浄化して大腸がんの予防にもつながることが分かっています(※4)。
ゴボウの他にオリゴ糖を含む食べ物には、玉ネギやハチミツがあります。
宿便を出して便秘を解消し、腸内環境を整えるのは良いことです。
しかし、宿便を出すために便秘薬を決められた量以上に服用することや、毎日のように飲むことはおすすめしません。
便秘薬を常用すると次第に効果が感じられなくなり、飲む量が増える傾向があります。
便秘薬を飲みすぎると便秘が悪化するだけでなく、思わぬ副作用が出ることもゼロではないのです。便秘予防のためにも、便秘薬は常用しないようにしましょう。
ちなみに、下剤(便秘薬)を日常的に服用していると、腸が黒っぽく変色する「大腸メラノーシス」という状態を引き起こすことがあります。
大腸メラノーシスになると腸の動きが鈍くなり、便秘薬の効果を感じにくくなって、便秘薬をさらに多く服用する…という悪循環に陥る可能性も。
大腸メラノーシスは便秘薬の服用をやめると次第に改善します。
根本的な便秘改善のためには便秘薬を常用するのではなく食生活などの生活習慣の見直しや、薬のような副作用の心配がないサプリメントを活用するようにしましょう。
※1:Ogata et al., Microbial Ecology in Health and Disease, 1999
※3,4:光岡知足. "腸内フローラの研究と機能性食品." 腸内細菌学雑誌 15.2 (2002): 57-89.
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宿便をためないためには、便秘を予防することが大切です。便秘予防には、腸内環境を整えることがもっとも大事なことでしょう。
宿便を出して便秘を解消し、理想的な腸内環境に整えるためにも、今日から腸活を始めませんか。