最終更新日:2024.2.21
便秘になると体重が増えたり、むくみやすくなったりしませんか?
便秘で体重が増える原因は、腸内にたまっている便によるものなのでしょうか?それとも他に理由があるのでしょうか?
今回は、便秘で太る理由について詳しく解説していきます。
「慢性的な便秘で太りやすくなった」「便秘を解消したのに体重が減らない」などの悩みを解消するためのヒントが満載です。ぜひ最後までお読みくださいね。
この記事の執筆者
グリーンハウス株式会社
食品保健指導士・管理栄養士
古本 楓
食品保健指導士・管理栄養士としての知識を交えながら、「便秘」「腸活」についての情報をお届けいたします。
【資格】
・公益財団法人 日本健康・栄養食品協会
食品保健指導士
・管理栄養士
目次
便秘が数日続くと、下腹がポッコリしてきたり、おなかが重く感じたりしてきますよね。
そのような状態の時、腸の中にはどれくらいの量の便が詰まっているのでしょうか?
成人における1日の理想的な排便量は約150g。150gの便の量は、Mサイズの卵3個分程度です。
排便量が1日150g以下になると消化管通過時間が急激に増加し、便秘を引き起こす原因になります。
便秘になった場合、1日あたり約150gの便が出ない分、体重が増加していくことが想像できます。
例えば5日間便秘が続いた場合、単純に考えると1日150g×5日間で750g増えるということです。
実際には体重の増減はそれほど単純ではありませんが、便秘によって体重が増えることは間違いないでしょう。
1日150g程度の便を出すことが大腸がんの予防にも有効であるという説もあり、便秘の改善は健康寿命を延ばすためにも重要な課題です。
しかし、実際には1日150gの便を出すことは難しいようです。
青年期の女性46名に対して、本人の自覚等から便秘群と非便秘群に分けて排便状況や食事について調査を実施したところ、便秘の自覚がない非便秘群でも1日あたりの排便量は93±43.8mlであり、目標排便量の150gを大きく下回る結果となりました(※)。
果たして、1日150gの便を出すためにはどうすれば良いのでしょうか。
その目標を達成するための指標として、厚生労働省では「日本人の食事摂取基準(2020年版)」において食物繊維の1日の摂取目標量を女性18g以上、男性21g以上(ともに18~64歳の場合)として定めています。
※:森本聡尚, et al. "青年期女性の排便習慣に対する小麦ふすまシリアルの改善効果." 日本食物繊維研究会誌 1.2 (1998): 15-22.
太る原因はとても複雑で、様々な要因が絡み合った結果として肥満が引き起こされている場合が少なくありません。
肥満の原因として考えられている主な理由をみてみましょう。
食事によって糖質を摂取すると、血糖値が急激に上昇してインスリンが過剰に分泌されます。
インスリンには血糖値を一定に保つ作用がありますが、分泌量が多くなると脂肪をため込みやすくなるという特徴があります。
ちなみに、糖尿病患者の便秘有病率は28.6~59.5%とされ、便秘と血糖コントロール不良との関連性も報告されています(※1)。
食事や間食などによって摂取したエネルギーが消費エネルギーを上回ると、余った分が貯蔵エネルギーとして蓄積され、脂肪になります。
エネルギーを過剰に摂取してしまう原因として、満腹感を得られる血糖値ポイントの上昇やインスリンの過剰分泌、ホルモンの乱れ、ストレスなどが考えられています(※2)。
ある実験で1日の食事回数を2,3,4,5回に分けて食べさせたところ、2回の人が最も肥満に陥ったという結果が出ました。
マウスを使った実験でも、エサをドカ食いさせる群とチビチビ食べさせる群ではドカ食いさせた群の方が太ったという報告があります。
その理由として、摂食によって得たエネルギーの一部は吸収時に熱として失われますが、接触回数が減るほどが熱になるエネルギー量が低下し、脂肪になる余分なエネルギーが多くなることが予想されています(※3)。
夜遅い時間や、就寝時間の直前に摂る食事も肥満を引き起こす原因です。
夜は副交感神経が優位になり、消化管の機能が高まって食物エネルギーの消化吸収が向上。
その結果、摂取したエネルギーが貯蔵エネルギーになりやすいと考えられています(※4)。
運動量が不足すると、消費エネルギーが減るだけでなく、体内にエネルギーをため込みやすい代謝状態になります。
よく噛んで食べると、摂食抑制効果をもつペプチドホルモンの分泌量が増加します。
すると摂取量が少なくても満腹感や満足感を得やすくなり、肥満予防につながります(※5)。
噛む回数が少ないとこの抑制効果が得られにくくなり、食べる量が増えがちになります。
※1:古川慎哉, et al. "便通異常を有する糖尿病患者を対象としたアンケート調査研究." 診療と新薬 58.9 (2021): 675-687.
※2,3,4,5:井上修二. "咀嚼と肥満・糖尿病." 日本咀嚼学会雑誌 1.1 (1991): 19-24.
便秘が肥満を引き起こす原因として、以下のようなものが挙げられます。
必要な量を吸収したあとの過剰な脂肪分や糖分は本来便として排出されますが、便秘になるとそのまま腸内に滞留してしまいます。
滞留した便からは脂肪分や糖分が吸収され続け、皮下脂肪として蓄えられていきます。
便秘により滞留した便には腸内の老廃物なども含まれており、ドロドロした血液として取り込まれます。
ドロドロの血液により血行が悪くなると細胞や臓器の働きが低下し、基礎代謝の低下を招き肥満の原因となります。
便秘により滞留した便が腐敗すると悪玉菌のエサとなる有害物質が発生し、腸内環境のバランスが乱れます。
腸内環境の乱れは、脂肪の蓄積抑制作用などがある短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)を生成する菌種を減らし、エネルギー吸収効率に変化をもたらします。
さらに、摂食中枢にも作用することで脂肪蓄積を促進し、肥満をもたらす可能性も。
腸内細菌叢(腸内フローラ)の変化で肥満が引き起こされると耐糖能も悪化し、糖尿病発症のリスクが上昇します(※)。
※:坊内良太郎, and 小川佳宏. "IV. 肥満・糖尿病と腸内細菌." 日本内科学会雑誌 104.1 (2015): 57-65.
※:藤坂志帆. "防風通聖散による腸内細菌を介した糖代謝改善作用." ファルマシア 58.6 (2022): 563-566.
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腸内環境の悪化と肥満に関して、世界で様々な実験が行われています。その中でも、特に興味深い実験結果や報告をご紹介しましょう。
2006年、米国のジェフェリー・ゴードン博士らは、腸内を無菌状態に保ったマウスに正常なマウスと肥満マウスの便を移植したところ、肥満マウスの便を移植されたマウスは劇的に体重が増え、体脂肪が47%増加したことを発表しました。
さらにヒトの肥満者でも検討を行い、体脂肪の過剰な蓄積が腸内細菌叢の組成と関連することが示される結果が確認されています(※1)。
また、肥満の人とそうでない人の腸内細菌を比較すると、肥満の人は“痩せ菌”と呼ばれるバクテロイデス門に属する細菌が減少。
逆に“デブ菌”と呼ばれるファーキューテス門に属する細菌の増加が認められました(※2)。
これらの実験や研究結果から、便秘と腸内環境の悪化、肥満には関連性があることが考えられるでしょう。
とは言え、腸内細菌の種類は非常に多く、個人差も大きいため、一概に「この菌を摂取すれば痩せる」などと断言することはできません。
しかし、便秘解消・予防のためには腸内細菌を多様化し、腸内環境を整えることが大切だと言えるでしょう。
※1:内藤裕二, 髙木智久, and 井上亮. "肥満と腸内細菌: 腸内環境からみた下部消化管疾患." 日本消化器病学会雑誌 118.6 (2021): 525-531.
※2:河野豊. "食べ過ぎだけではない肥満の理由." 生物工学会誌 101.1 (2023): 33-33.
便秘による肥満を解消するために、腸内細菌の多様化を促進するための食生活を意識してみましょう。腸内環境の改善に効果的な栄養素をご紹介します。
善玉菌の代表格であるビフィズス菌。大腸内の善玉菌のうち、なんと99.9%をビフィズス菌が占めます(※1)。
ビフィズス菌は短鎖脂肪酸の1つである酢酸(さくさん)を産生します。
酢酸は悪玉菌が増えるのを抑制して腸内環境を整えるとともに、脂肪の蓄積や血糖値の上昇を抑制するとされています。
さらに腸の動きを活発にするため、便秘の改善に効果的です。
便秘傾向の男女55名(男性12名、女性43名、平均年齢31.6±7.2歳)がビフィズス菌を継続して摂取したところ、排便の日数と回数が増えたという研究結果が報告されました(※2)。
酢酸(短鎖脂肪酸)の働き
便秘解消や肥満の防止の頼もしい味方、ビフィズス菌。
しかし、腸内のビフィズス菌は数日で体外に排出されてしまいます。また年齢とともに減少する傾向もあるため、ビフィズス菌入りのヨーグルトやサプリメントなどで継続して摂取することが大切です。
乳酸菌の摂取によって食事由来の脂肪の吸収が抑制され、便への脂肪排泄が促進されることから内臓脂肪が低減すると考えられています(※3)。
腸内の善玉菌を増やすには、善玉菌を含む食べ物(プロバイオティクス)と、善玉菌のエサとなる食べ物(プレバイオティクス)を摂ることが有効です。
ビフィズス菌はオリゴ糖や水溶性食物繊維を発酵分解する際に、酢酸を作り出します。
オリゴ糖は大豆、ゴボウ、玉ねぎ、はちみつなどに、水溶性食物繊維はワカメなどの海藻類、納豆、大麦などに多く含まれています。
ビフィズス菌と併せて摂取することで、便秘解消や肥満の防止に役立ちます。
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ダイエットのために、糖質を気にして炭水化物を控えている人がいるかもしれません。
しかし、炭水化物には食物繊維が多く含まれています。便秘を引き起こす要因として、炭水化物を摂らないことによる食物繊維不足の可能性も。
炭水化物の摂取は、便の量を増やして排便しやすくするだけでなく、腸内細菌叢の多様性を保持することに役立つとも言われています。
ある研究では、日本人の腸内細菌叢は炭水化物やアミノ酸の代謝能力が高く、健康に有益な作用をもたらす可能性が高いことが示唆されました(※4)。
炭水化物の中でも、白米の10倍以上にあたる量の食物繊維を含有しているのが「大麦」です。大麦を食べるとインスリンの過剰分泌が抑えられ、食後の血糖上昇が抑制されることが明らかになっています(※5)。
また、大麦を配合した食品は胃の中にとどまる時間が長く、満腹感が持続。さらに、大麦に含まれるβ-グルカンは消化管ホルモンの分泌に影響を与え、満腹感の持続に作用し、食事のエネルギー摂取量を低下させることが分かっています(※6)。
糖質制限を行う際は炭水化物を全てカットするのではなく、白米を避けて大麦や玄米といった全粒穀物を食べることをおすすめします。
※1:Ogata et al., Microbial Ecology in Health and Disease, 1999
※3:山本直之. "乳酸菌発酵と食品." 化学と教育 67.12 (2019): 588-591.
※4:藤坂志帆, and 戸邉一之. "1. 肥満・糖尿病の病態と腸内細菌叢 2) 宿主の遺伝素因, 食事, 腸内細菌叢の相互作用." 糖尿病 63.6 (2020): 369-372.
※5,6:青江誠一郎. "穀類に含まれる食物繊維の特徴について." 日本調理科学会誌 49.5 (2016): 297-302.
今回は、便秘と肥満、体重増加の関係性について解説しました。便秘によって腸内環境が悪化すると、脂肪が蓄積しやすい体になってしまいます。
太りやすい体質になるのを避けるためにも、早めの便秘解消が大切です。
便秘を改善して、腸内も見た目も健康的なスッキリ感を目指しましょう。