最終更新日:2023.11.21
便秘で悩むのは、大人だけだと思っていませんか?
6歳未満の子ども(平成21年6月1日から平成27年5月3日までに生まれた子ども)のいる世帯及びその子ども3,871人を対象に実施した「平成27年度乳幼児栄養調査」で、子どもの排便の頻度について、約25%の子どもが「ほぼ毎日ではない」ことが明らかになりました。
このように、子どもの便秘は決して珍しいことではありません。しかし、子どもの便秘は大人とは違う理由で引き起こされている可能性があり、場合によってはその後の成長に影響を与える恐れもあります。そのため、便秘の原因を見極めたうえで、早めに適切な対応をすることが大切です。
今回は「子どもの便秘」について、原因や成長への影響などを管理栄養士としての知識を交えながらお伝えします。お子さんのお腹の調子が気になっている保護者の方は、ぜひ参考にしてくださいね。
この記事の執筆者
グリーンハウス株式会社
食品保健指導士・管理栄養士
古本 楓
食品保健指導士・管理栄養士としての知識を交えながら、「便秘」「腸活」についての情報をお届けいたします。
【資格】
・公益財団法人 日本健康・栄養食品協会
食品保健指導士
・管理栄養士
目次
便秘はありふれた症状であり、「たかが便秘」と軽視されることが少なくありません。
便秘はこれまで「週に3回未満の排便」と定義されてきましたが、便秘患者の多くは排便頻度が週に3回以上あるにも関わらず、排便時のいきみが必要だったり、便が硬かったり、おなかがはっているなどの症状を訴えることが多くありました。そのため、排便の頻度のみで便秘を定義するのは難しいことが指摘されています(※1)。
一方、中国の伝統医学である中医学では、便秘の定義を「毎日便通がない」「排便の時間が長い」「便が硬い」とし、便通が毎日あることが大切であるとしています(※2)。
便秘が治療を必要とするほど悪化したものが「便秘症」です。便秘症が1~2ヶ月続いた場合は「慢性便秘症」と診断されます。
慢性便秘症の中でも、消化器官に異常がないものは「機能性便秘」、胃や小腸などの消化器官や肛門の疾患が原因で便秘が引き起こされている場合は「器質性便秘」と分類されます。
機能性便秘には、腹筋力の低下などが原因の「弛緩性便秘」、大腸のぜん動運動が活発過ぎる「痙攣性便秘」、便が直腸に達しているにもかかわらず便意を感じにくい「直腸性便秘」の3種類があり、生活習慣や食生活、ストレスの蓄積などによる自律神経の乱れが大きな原因です。
3歳~9歳の子どもを対象に排便の実態について調べた調査では、14.6%が機能性便秘に該当するという結果も出ています(※3)。
※1,2:徳井教孝,and三成由美."便秘の定義と便秘体質."中村学園大学薬膳科学研究所研究紀要5(2012):49-54.
※3:髙妻弘子,and城戸佐智子. "子どもの排便の実態と生活習慣の関係性."宮崎学園短期大学紀要13(2021): 69-79.
子どもの便秘には、大人の便秘とは違う原因が隠れている場合があります。
大人が便通に問題を抱えている場合、その要因の多くは不規則な生活リズムによって自律神経がバランスを崩していることや、乱れた食生活による食物繊維の不足などです。
しかし、子どもが便秘になる理由には、夜型の生活習慣や野菜を嫌うなどの偏った食生活に加えて、
①トイレットトレーニングで強制・失敗して叱られたことで排便に対してイヤなイメージがある
②排便時に痛みを感じたことがあり、痛みを避けるため排便を我慢する
③便意を感じても遊びを優先して我慢したために排便のタイミングを逃して便秘傾向になる
④学校での排便に対して羞恥心が働き便意を我慢しやすくなり便秘が悪化する
といった理由も関係するとされているのです。
子どもが便秘を発症しやすいピークは2歳~4歳のトイレットトレーニングの時期とされ、①~③のような理由によって排便を避ける傾向が強くなると考えられています(※)。
子どもが様々な理由で排便を我慢すると、
①排便を我慢して便が腸にたまる
②便が硬くなり排便時の痛みがさらに強くなる
③便を排出することに対して「痛い思いをしたくない」と排便を避ける
④便意を我慢して直腸に便がたまることが慢性化して、ますます便秘が悪化する
といった悪循環に陥ります。
硬くなった便が直腸に詰まると、「便塞栓(べんそくせん)」という塊になり、肛門に蓋をしてしまいます。便塞栓ができると、その横をすり抜けて水や泥のような柔らかい便が漏れて、「便失禁(遺糞症/いふんしょう)」を引き起こす可能性が高くなるのです。医師の診察によって便塞栓が認められた場合は、速やかな除去が行われます。
※:小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン(日本小児栄養消化器肝臓学会/日本小児消化管機能研究会編集)
便秘でおなかがスッキリしないことによる不快感は、子どもも大人も同じです。
しかし子どもの場合、排便や朝食などの生活リズムが自尊感情にも大きく影響を与えることが、ある調査によって分かっています。
調査では、高知県の小・中・高等学校の児童生徒2887人を対象として朝食の摂取を中心に、生活スタイルの解析が行われました。
その結果、排便習慣が「毎日」あるいは「2日に1回」など定期的にある子どもは、「自分なりに良さがある」「友だちに大切にされている」「家族の中で大事にされている」等の自尊感情が高い傾向にあることが明らかになりました(※1)。
また、「朝食を食べない」子どもと「時々食べる」子どもは便秘傾向にある割合が高いことも分かっています。「毎日排便がある子ども」のうち、「朝食を毎日食べる」子どもは80.4%、「時々食べる」子どもは68.3%、「食べない」子どもは66.7%でした(※2)。
朝食や排便のリズムが整うと、体内時計もしっかりと働いて睡眠の質も向上。睡眠の質が高くなると、成長ホルモンの分泌促進や日中の疲労回復、記憶の整理や定着、精神的な安定など様々な面で良い影響があるのです。
逆に、睡眠不足の子どもはイライラしがちで攻撃的になりやすく、集中力や記憶力も低下することが指摘されています(※3)。
子どもの頃の便秘症状は、大人になっても影響を及ぼす可能性が高いことが分かっています。
ある病院での調査では、便秘治療をした5歳以上の子どものうち、25%程度が成人の便秘に移行していました。また、4歳以下で便秘と診断された子どもの40%以上が治療後、学齢期になっても便秘による症状が残っていることが判明しています(※4)。
子どもの便秘は「たかが便秘」と軽く考えず、気になる症状がある場合は早めに医療機関へ相談した方が良いかもしれません。
※1,2:川村美笑子,et al."高知県の幼児の食生活と生活スタイル,児童生徒の食生活と生活スタイル及び自尊感情に関する考察." 高知女子大学紀要生活科学部編57(2008):43-50.
※3:亀井雄一,and岩垂喜貴."子どもの睡眠."保健医療科学61.1(2012):11-17.
※4:小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン(日本小児栄養消化器肝臓学会/日本小児消化管機能研究会編集)
今回は、子どもが便秘になる原因や、便秘が子どもに与える影響についてお伝えしました。
子どもの便秘を改善する方法として、生活リズムを整える・食物繊維が多い食べ物を与えるなどが有効ですが、子どもが排便に対してイヤなイメージを抱き、そのために排便を我慢している場合は、排便に対する恐怖や痛みなどの記憶を取り除いてあげることも必要でしょう。
便秘が5日以上続いている場合や排便時に痛みを訴える場合は、自己判断で市販薬を使用せず、医療機関で医師による診断を受けることをおすすめします。
ビフィズス菌の力で、便通を改善するサプリメント >>詳しく見る