最終更新日:2024.1.19
「便秘=女性に多い」というイメージがありますが、実は加齢とともに男女関係なく便秘になりやすくなることを知っていますか?
今回は、高齢者が便秘になる原因や解消方法、便秘予防法などについて詳しく解説します。
この記事の執筆者
グリーンハウス株式会社
食品保健指導士・管理栄養士
古本 楓
食品保健指導士・管理栄養士としての知識を交えながら、「便秘」「腸活」についての情報をお届けいたします。
【資格】
・公益財団法人 日本健康・栄養食品協会
食品保健指導士
・管理栄養士
目次
厚生労働省が公表した「2019年(令和元年)年国民生活基礎調査」によると、便秘の症状がある人は60代までは圧倒的に女性が多いものの、70代以上になると男女の差はほとんどありません。80代以上では、わずかながらも男性の方が便秘に悩む人が多くなっています。
排便習慣には個人差が大きく、「〇日以上排便がない場合は便秘」などといった明確な基準はありません。しかし「慢性便秘症診療 ガイドライン2017」では「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態を便秘と定義しています。
高齢になると、便秘とともに便失禁が起こる場合があります。
便失禁とは「自らの意思に反して社会的、衛生的に問題となる状況で肛門から液状または固形の便が漏れる症状」であり、発症の原因は様々です。
便失禁には
があり、一般人口の便失禁有症率は成人人口の2%、65歳以上の7%、介護施設入所者の50%程度とされています。
高齢者の便失禁は、便秘治療のために内服している下剤の量が多すぎることが原因で引き起こされる場合が少なくありません(※)。
※:味村俊樹. "高齢者の排便障害." 日本老年医学会雑誌 46.5 (2009): 398-401.
便秘は、原因によっていくつかの種類に分類されます。
1・器質性便秘(症候性便秘)…大腸がんやS状結腸憩室炎など病気が原因の便秘 | ||
2・機能性便秘 | a・急性便秘 旅行や環境の変化などによる一過性の便秘 |
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b・慢性便秘 | ①弛緩性便秘 腹圧の低下や腸の蠕動運動機能低下などによる便秘 |
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②痙攣性便秘 過敏性腸症候群の症状の一つ |
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③直腸型便秘 便意を感じても排便を我慢し続けたことで排便反射が鈍くなり、便意が起こりにくくなった便秘 |
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c.薬剤性便秘 服用している薬剤の副作用として起こる便秘 |
上記のうちで高齢者に多いのは、弛緩性便秘と薬剤性便秘です。
弛緩性便秘が増える原因として、加齢による腸の蠕動運動の低下が挙げられます。蠕動運動が鈍くなることで便の腸内通過時間が長くなると、便に含まれる水分が腸で過度に吸収され、カチコチの硬い便に。
加齢によって便を押し出すための腹筋力も弱くなっているため、硬い便を排出できず便秘が悪化するという悪循環に陥ります。
高齢になるに従って服用する薬剤の種類が増え、その副作用として便秘の症状が表れている場合も珍しくありません。
下記の薬剤は、副作用として便秘を引き起こしやすいとされています。
便秘の原因となりやすい薬剤(※2)
高齢者は便意が起きにくく、便秘の自覚がないまま腸内で便が硬くなっている場合があります。
硬くなりすぎた便は糞便塞栓となり、場合によっては下剤や浣腸では取り除けないことも。糞便塞栓は腸閉塞や腸穿孔といった命に関わる重篤な事態を招く可能性もあり、軽視できません。
※1:中島淳, 大久保秀則, and 日暮琢磨. "1. 高齢者の慢性便秘症の病態と治療." 日本老年医学会雑誌 57.4 (2020): 406-413.
※2:中島淳. "2. 慢性便秘の診断と治療." 日本内科学会雑誌 105.3 (2016): 429-433.
便秘が続くと腹部の膨満感などによって食欲が低下し、食事の摂取量が減少します。それに伴い栄養状態が低下すると、免疫力が低下気味の高齢者は健康状態が悪化しやすくなる可能性も。
また、便秘による腹部の不快感などが原因で外出しなくなる人も少なくありません。外出が減ることで活動量が低下。すると筋肉量が減少してサルコペニア(筋肉減少症)を引き起こしやすくなり、フレイル(加齢により心身が老い、衰えた状態)を誘発する悪循環に陥るのです(※1)。
慢性的な便秘は、心血管疾患や脳卒中のリスクであることも明らかになっています。また、疫学調査によって慢性便秘が慢性腎臓病のリスク因子であるという報告も。さらには、慢性呼吸器疾患においても排便時に低酸素に陥る可能性が高いことが指摘されています(※2)。
※1:中島淳, 大久保秀則, and 日暮琢磨. "1. 高齢者の慢性便秘症の病態と治療." 日本老年医学会雑誌 57.4 (2020): 406-413.
※2:結束貴臣, and 中島淳. "高齢者の便秘と課題." 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 27.1 (2023): 14-27.
便秘になった時にまず見直したいのが、生活習慣と食生活です。便秘改善・対策のために意識したい生活習慣や、積極的に摂取したい食べ物をご紹介します。
メリハリのない生活を送ると、体内時計が乱れて自律神経がバランスを崩しやすくなります。自律神経が乱れると、便秘だけでなく不眠や食欲低下、倦怠感など全身に様々な悪影響が表れます。
起きる時間や寝る時間、食事・入浴のタイミングなどを毎日一定にすることで体内時計が整い、便通の改善が期待できるでしょう。また、目覚めてすぐに太陽の光を浴びると体内時計がリセットされて、自律神経が整いやすくなります。
高齢者に多い悩みの一つに、睡眠障害があります。
年齢を重ねるごとに、早寝早起きの傾向が強くなります。これは体内リズムが前倒しになるためで、睡眠の質に満足感が得られている場合は問題ではありません。また、睡眠時間も短くなります。
しかし、睡眠時間が短いことに不安を感じて、眠気がないにもかかわらず寝床で長時間過ごすことで寝つきが悪くなったり、寝ている途中で目が覚める中途覚醒が増えたりして、睡眠の質が低下。
睡眠の質が悪くなると自律神経が乱れ、腸の蠕動運動が低下して便秘の悪化につながります。
たとえ便意がなくても、毎日同じ時間やタイミングにトイレへ行くことが便秘改善には効果的です。
特に、朝食後は便が出やすいタイミング。便意を感じていなくても、トイレに行くことを毎日の習慣にしましょう。
理想的な排便姿勢は、和式便器に座ったポーズです。しかし、現在は洋式便器の家がほとんどでしょう。洋式便器の場合は、足を踏み台にのせて膝の位置を上げ、上半身を前傾させた姿勢が理想です。
簡単なストレッチやウォーキングなど体に負担をかけない程度の軽い運動を習慣化すると、腸が刺激されて便秘解消につながります。体をねじる動きは、便秘解消に効果的です。
便秘解消に効果的な体操!毎日やって便秘を予防しよう >>詳しく読む
高齢になると喉の渇きを感じにくく、水分不足になりがちです。体内の水分が足りないと、便が硬くなって排出困難に。
軟らかく排出しやすい便にするため、こまめに水分を摂るようにしましょう。喉の渇きを感じる前に飲むのがポイントです。
年齢を重ねるとともに、食事の摂取量は減少傾向に。しかし、食べる量が少ないと便の量も減少し、排便しにくい状態になります。
排出しやすい便にするためには、食物繊維が多く含まれた食品を摂取して便のかさを増すことが有効です。
ただし、便秘が重症化している場合は注意が必要です。不溶性食物繊維が多い食べ物を摂ると便が大きくなりすぎて、腸内をスムーズに移動できずに便秘が悪化する可能性があります。
便秘が何日も続いている場合は、不溶性食物繊維が多い食べ物を控えた方が良いでしょう。
不溶性食物繊維を多く含む食べ物
便秘解消に効果的な食べ物!腸内環境を整える食べ物で毎日スッキリ >>詳しく読む
食事量が少ない高齢者は便の量が少ないため、毎日排便がある必要はありません。大切なのは、排出された便の形状や硬さです。
便の硬さや形状から排便状態を判断する指標として使われる「ブリストル便形状スケール」で、普通~やや軟便が良い状態であるとされています。
高齢者の便秘解消のためには、自律神経を整える工夫や運動による腸への刺激、便通を促す食物繊維の摂取などが有効です。
また、腸内環境の改善も重要なポイント。腸内に善玉菌を増やすことが、便秘解消につながります。
年齢に応じた便秘対策で、快適な毎日を送りましょう。
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