最終更新日:2024.2.13
快適な毎日に欠かせないのが、スムーズなお通じ。
便秘の改善には生活習慣や食生活の見直し、便秘薬の服用などが一般的ですが、人によってはお腹を温めるだけで便秘が解消される場合があります。ただお腹を温めるだけで便秘が改善できるのであれば、手軽で嬉しいですよね。
そこで今回は、お腹を温めると便秘が改善される理由や、便秘解消に効果的な腸の冷えを取る方法などをご紹介します。
冷え性の人や腹部の冷えを感じることが多い人は、参考にしてくださいね。
この記事の執筆者
グリーンハウス株式会社
食品保健指導士・管理栄養士
古本 楓
食品保健指導士・管理栄養士としての知識を交えながら、「便秘」「腸活」についての情報をお届けいたします。
【資格】
・公益財団法人 日本健康・栄養食品協会
食品保健指導士
・管理栄養士
目次
便秘は女性に多い症状であり、「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」では女性全体の43.7%、65歳以上の女性では73.8%が便秘であると回答しています。
男性全体の便秘有訴者の割合は27.5%、65歳以上の男性で68.1%であるため、いかに多くの女性が便秘に悩まされているのかが分かります。
便秘に並んで女性に多い症状が冷え性です。「冷え性」とは「通常の人が苦痛を感じない程度の温度環境下において異常な寒冷感を自覚し、それが持続する状態」とされています(※)。
「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」によると、「手足が冷える」症状がある人は女性全体の32.6%、65歳以上の女性では62.5%にのぼりました。
男性では全体が15.1%、65歳以上の男性で38.4%であり、沢山の女性が冷え性を自覚していることが明らかにされました。
※:寺澤,捷年「漢方医学における「冷え症」の認識とその治療」『生薬学雑誌』41(2),日本生薬学会. 国立国会図書館デジタルコレクション(参照 2024-02-07)
冷え性は病名ではなく明確な定義はありません。しかし、症状によっていくつかのタイプに分類されます。
冷え性のタイプ(※) | |
---|---|
タイプ | 特徴 |
下半身型 | 足や下半身が冷え、上半身がのぼせる場合もある |
四肢末端型 | 四肢末端が氷のように冷える |
内臓型 | 体表面は温かいが腹部など体内が冷える |
全身型 | 全身型 体の表面も内部も冷える |
局所型 | 体の一部が局所的に冷える |
混合型 | 異なる2タイプの冷えが混在する |
※:伊藤剛. "冷え症と自律神経." 自律神経 59.1 (2022): 10-15.を基に作成
このうち、便秘の人は内臓型冷え性タイプである可能性が高いとされています。
冷え性になる要因の一つに、自律神経の乱れが挙げられます。
代謝や消化、心拍数の増減など様々な体内機能を、自分の意思にかかわらず自動的に調節しているのが自律神経です。自律神経には日中の活動的な時間帯に優位に働く「交感神経」と、夕方から夜にかけて優位になる「副交感神経」があります。
体内機能は、この2つの自律神経がバランス良く適切に切り替わることで正常に保たれています。しかし、自律神経は生活習慣やストレスなどによって乱れやすく、心身に影響を与える場合が少なくありません。冷え性もその一つです。
冷え性は、交感神経が緊張状態にあることで血管障害が起こり、末梢循環障害によって血流量が低下するために起こると推察されています(※)。
冷え性によって腸内に血流障害が起こると腸の動きが鈍くなり、消化機能が低下します。
また、消化は副交感神経が優位に働いているときに促進されますが、自律神経がバランスを崩して夜になっても交感神経が活発な場合、睡眠中に正常な消化活動が行われません。その結果、便秘になるのです。
※:棚﨑由紀子, and 深井喜代子. "冷え症高齢者に対するフットマッサージの冷え症状の緩和効果." 日本看護技術学会誌 15.2 (2016): 124-134.
腸の冷えが便秘の原因である場合、お腹を温めるだけで便秘が改善する可能性も。
いくつかの研究結果によって、皮膚の温度が2℃以上上昇すると腸管の運動が促進されることが報告されています(※1)。
ここでは、看護の現場で便秘改善のため日常的に行われている「温罨法(おんあんぽう)」についてご紹介します。
温罨法は、湯たんぽやカイロ、温湿布、温熱シート、蒸しタオルなどで局所に温熱刺激を与えることで、筋緊張の緩和や痛覚刺激の低減、代謝促進、鎮痛作用、皮膚および皮下の血流増大等の効果があると言われています(※2)。
温罨法の便秘解消効果を裏付けるような実験結果も、数多く発表されています。
便秘傾向にある成人女性9名を対象に、蒸気温熱シートによる腰部および下腹部への温罨法を実施。その結果、温罨法を実施したグループでは末梢血流量の増加や副交感神経活動が優位になり、消化管機能が向上して慢性便秘の改善につながったことが報告されています(※3)。
また、便秘を自覚する健康な若年女性18名(年齢は20±1.7歳)を対象に、温罨法が便秘改善に効果があるかを検討する目的で実施された研究では、1日8±2時間の連続温罨法を7日間継続した結果、「お腹の張った感じ」「排便回数」「排便量」などの便秘症状が改善されました(※4)。
温罨法で便秘が改善する理由として、腹部温罨法では皮膚からの温感刺激が交感神経活動の増加を抑え、腰背部温罨法では温熱刺激が全身に及び、効果が持続していると考えられます(※5)。
以上のことから、腹部・腰背部のどちらを温めても排便促進効果が期待できると言えるでしょう。
湯たんぽやカイロ、蒸気温熱シートなどを使う際は、低温やけどに注意が必要です。就寝時の使用は避け、肌着や腹巻などの上から温めるようにしましょう。
※1:菱沼典子, et al. "乾熱温罨法の有無による血液透析患者の腰部皮膚温の比較." 聖路加看護大学紀要 34 (2008): 1-7.
※2:坂田五月, and 石津みゑ子. "温罨法の違いが生体反応と温度感覚に及ぼす影響: 湯たんぽと電気毛布の比較から." 日本生理人類学会誌 8.2 (2003): 51-60.
※3:江上千代美, et al. "下腹部と腰部の温罨法が生体に及ぼす効果の検討." 福岡県立大学看護学研究紀要 11.2 (2014): 45-51.
※4:細野恵子, and 岩元純. "温熱シートによる長時間温罨法が若年女性の便秘症状に及ぼす影響." 紀要 1 (2007): 31-34.
※5:木下彩子, and 石井範子. "排便援助における温罨法の部位の検討: 腰背部と腹部における比較." (2013).
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お腹の冷えは、食生活や生活習慣の見直しで改善・予防できます。普段から腸を温める生活を意識すれば、便秘とは無縁の健康的な腸になることも夢ではありません。
冷えと食および生活習慣との関連について、大学1年~3年生の女子学生215人を対象に調査を実施したところ、冷え性の人は麺類の摂取が多いことが分かりました。
麺類は単品食品であり副食なしでも摂取できるため、食品数の低下を招いて栄養バランスの低下につながっていることが考えられます。
冷え性の発症率を抑えるためには、麺類のような単品料理ではなく、多種類の食品を摂取して栄養バランスの良い食生活を送ることが望ましいと言えるでしょう(※1)。
お腹を温める食べ物
お腹を冷やす食べ物
締め付けが強い衣服を朝から夜まで長時間にわたって着用すると自律神経に影響を及ぼし、冷えやすさを助長する要因となっている可能性が指摘されています。
冷え対策として、入眠前・睡眠中は皮膚を温めて肌触りが優しい服(パジャマなど)を着用するようにしましょう(※2)。
足浴(足湯)は副交感神経を優位にして、リラクゼーション状態へ導く効果があることが分かっています。
足浴に加えて洗いや簡易マッサージを行ったところ、下肢だけでなく胸部深部温や上肢皮膚温も上昇させ、全身に保温効果をもたらしたという実験結果が報告されました(※3)。ほかの研究でも、足浴は基礎体温を上昇させ、低体温に伴う各症状を緩和させる可能性が示唆されています(※4)。
足浴のリラックス効果によって副交感神経が優位になり、消化の促進や睡眠の質の向上などが期待できるでしょう。
女性に冷え性が多い理由として、男性よりも筋肉量が少ないことが考えられます。
冷え性の人と冷え性でない人の基礎代謝量と筋肉量について、健康な女性(19歳~22歳)18名を対象に調査を行ったところ、冷え性の人は非冷え性の人よりも基礎代謝量や筋肉量などが低いことが示されました(※5)。
健康な人でも加齢によって生理機能は0~2%程度が毎年減少するとされていますが、運動習慣をもつことで生理機能の低下を抑制することが可能であり、有酸素運動能力を維持することで体温調節機能を保てると考えられます(※6)。
習慣的に行うウォーキングやストレッチなど運動は、筋肉肉量を増やすのに効果的です。日常的に実施して筋肉量を増やせば、基礎代謝量の上昇に伴って腸の冷えを改善できる可能性が高いと言えるでしょう。
※1:山王丸靖子, et al. "若年女性の冷えと食および生活習慣との関連." 日本食生活学会誌 26.4 (2016): 197-204.
※2:田村照子. "冷えと衣服." 被服生理学の立場から. 漢方と最新治療 8.4 (1999): 353-358.
※3:工藤うみ, 工藤せい子, and 冨澤登志子. "足浴における洗い・簡易マッサージの有効性." 日本看護研究学会雑誌 29.4 (2006): 4_89-4_95.
※4:盛島加菜, and 砂川力也. 低体温改善を目的とした個別プログラムの介入研究. Diss. 琉球大学, 2019.
※5:河野かおり, et al. "熱産生の観点からみた冷え症の生理学的メカニズム─ 基礎代謝量および筋肉量を用いた検討─." 獨協医科大学看護学部紀要 13 (2020): 41-47.
※6:上野哲. "年齢と体温調節機能との関連性." 日本職業災害医学会雑誌 64 (2016): 308-318.
今回は、お腹を温めることが便秘改善につながる理由や、腸を温めるための生活習慣、食生活などについて解説しました。
腸の冷えがもたらす悪影響は、便秘だけにとどまりません。慢性的な低体温は免疫力を低下させ、ウイルス感染症やがん細胞の増加を引き起こすなど様々な疾患との関連性が指摘されています(※)。
便秘解消や病気予防のためにも、今日からお腹を温める「腸温活」を始めませんか。
※:盛島加菜, and 砂川力也. 低体温改善を目的とした個別プログラムの介入研究. Diss. 琉球大学, 2019.
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