最終更新日:2024.2.15
便秘が数日間続いたかと思えば急に下痢になったり、下痢気味で困っていたら今度は便秘になったり…。便秘と下痢が繰り返す症状で悩んでいる人も多いのではないでしょうか?
今回は、便秘と下痢が繰り返し起こる場合に考えられる病気や原因、便秘や下痢を予防するための生活習慣や食生活について解説します。
お腹の調子が安定しなくて困っている人は、参考にしてくださいね。
この記事の執筆者
グリーンハウス株式会社
食品保健指導士・管理栄養士
古本 楓
食品保健指導士・管理栄養士としての知識を交えながら、「便秘」「腸活」についての情報をお届けいたします。
【資格】
・公益財団法人 日本健康・栄養食品協会
食品保健指導士
・管理栄養士
目次
便秘や下痢はよくある症状であり、市販薬で症状が改善することも多いため、軽視されがちです。しかし、繰り返す便秘や下痢の陰には重篤な病気が潜んでいたり、便秘や下痢によって病気が引き起こされたりする可能性もあります。
「慢性便秘症診療ガイドライン2017」において、便秘は「本来体外に排出すべき糞便を十分かつ快適に排出できない状態」と定義されています。
便秘には急性便秘症と慢性便秘症があり、加齢とともに慢性便秘症の人は増加。厚生労働省が公表した「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」によると、65歳以上の7割以上が便秘の症状を自覚しています。
慢性便秘症は、腸に関連する疾患が原因で起こる「器質性便秘」と、生活習慣や偏った食生活などが主な要因となる「機能性便秘」に分類され、そこから症状や原因によってさらに細かく分けられます。
便秘によって起こり得る代表的な疾患には、排便時のいきみ(努責)による血圧上昇に伴った脳卒中や心疾患などがあり、場合によっては命に関わる重篤な事態を引き起こしかねません(※1)。
下痢は「日に3回以上の軟便か水様便」と定義され、急性下痢症と慢性下痢症があります。急性下痢症の大半はウイルス性下痢症であり、予後の悪い疾患を合併する場合が多いため、迅速な原因推定と初期治療が求められます。
慢性下痢症にはがんや栄養障害などを起こす疾患が含まれることがありますが、緊急性が高い疾患は稀とされています(※2)。
しかし、いつ便意に襲われるか分からないために仕事や勉強に集中できず、外出時も不安が付きまとうなどQOLを低下させる要因になるでしょう。
※1:筒井敦子, and 渡邊昌彦. "便秘がもたらす疾患." White 5 (2017): 18-23.
※2:佐藤健太. "下痢・便秘症 Ⅰ 下痢." 日本プライマリ・ケア連合学会誌 35.1 (2012): 56-61.
便秘と下痢が交互に起こる場合、まず考えられるのが「過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)」です。
過敏性腸症候群は、器質的な疾患がないにもかかわらず、腹痛や腹部不快感とともに便通異常が関連して表れる機能性消化管障害の一つであり、便秘型、下痢型、混合型、分類不能型の4タイプに分類されます。
このうち、便秘と下痢を繰り返すのが混合型です(※1)。
過敏性腸症候群は命に関わる疾患ではありません。しかし、患者のQOLを著しく低下させることが明らかになっています(※2)。
過敏性腸症候群の便秘型によって引き起こされるのが「痙攣性便秘」です。
痙攣性便秘では、腸が過緊張状態となって便が分断され、腸内に停滞します。分断された便に含まれる水分が腸によって過剰に吸収されるため、硬い便となって排出困難な状態に。排便できたとしても、兎の糞のように硬くコロコロとした便となり、残便感を覚えることが少なくありません。
また、S字結腸に詰まって肛門をふさいでいた硬い便が排出された後に、奥にある柔らかい泥状の便が出てきて下痢の症状に見舞われる場合があります。
便秘から急に下痢になったり、便秘と下痢を繰り返す時は過敏性腸症候群による痙攣性便秘の疑いもあるでしょう。
※1,2:伊藤雅隆, イトウマサタカ, and 武藤崇. 過敏性腸症候群に対する認知・行動療法の展望. Diss. Doshisha University, 2015.
便秘と下痢を繰り返す疾患は、過敏性腸症候群だけではありません。便秘と下痢が交互に起こる可能性が高い代表的な疾患を挙げていきましょう。
厚生労働省が公表した「令和4年(2022)人口動態統計(確定数)」の部位別がん死亡数は、女性では大腸がんが最も多く、男性はトップが肺がん、次いで大腸がんでした(※1)。
また、2019年の部位別がん罹患率では、女性が乳がんに次いで大腸がんが多く、男性は前立腺がんの次に大腸がんが多いという結果が報告されています(※2)。
このことから、大腸がんは死亡率・罹患率ともに高い疾患であることが分かります。
大腸がんの初期症状として挙げられるのが、便秘と下痢を繰り返すということです。大腸内にできたがんによって便の腸内移動が阻害されるために便秘となり、がんで腸管が狭くなるために便が細くなって下痢の症状が表れるとされています。
便秘や下痢のほかに、血便や体重減少、貧血などの症状があります。大腸がんは40歳から増え始め、50代で一気に増加し、加齢とともに罹患率が上昇。そのため、40歳を過ぎたら年に一度は大腸がん検査を受けることをおすすめします。
大腸ポリープは、大腸内にできたイボのようなものです。大腸ポリープができた場合、腸内の便の移動を阻害して便秘が引き起こされます。また、腸内の狭窄によって便が細くなり、下痢のように感じることもあるでしょう。
大腸ポリープは大腸がんのタマゴとも言われ、放置するとがん化する場合があります。大半が内視鏡による切除が可能であるため、定期的な健診が有効です。
潰瘍性大腸炎は、国の指定難病にもなっている原因不明の炎症性腸疾患です。大腸や直腸の粘膜にただれ(びらん)や潰瘍を形成し、下痢や血便といった症状を引き起こします。
また、炎症を繰り返すうちに腸管狭窄が起こり便秘になる場合も。罹患者は30歳以下の成人が多く、長期間の医学管理が必要です。
大腸内で、外側に向かって「憩室」と呼ばれる袋状の突出部が発生した状態を「大腸憩室症」と呼びます。
食物繊維が少なく赤身肉が多い食生活や運動不足といった生活習慣のほか、排便時に強くいきむことで高い腹圧が腸内にかかることで、腸管の弱い部分が外に押し出されることによっても起こると考えられます。
大腸憩室症の患者は50%以上が何らかの腹部症状を訴え、便秘や下痢、腹部膨満感、下痢と便秘が交互に起こると報告されています(※3)。
また、大腸憩室症の合併症として多いのが「大腸憩室炎」です。憩室内で細菌が繁殖して炎症が起きることで発症し、腹痛や発熱といった症状を引き起こします。
糖尿病には様々な合併症があることで知られ、便秘や下痢もその一つです。
糖尿病によって自律神経が乱れると腸の感覚障害や運動障害が引き起こされ、便秘や下痢、腹痛などを繰り返すようになります(※4)。
クローン病は小腸や大腸などの消化管全域に炎症が起こり、ただれ(びらん)や潰瘍が生じる慢性疾患です。
厚生労働省から難病指定を受けている疾患であり、主な症状には下痢や血便、体重減少、貧血、全身倦怠感などがあります。また、腸の狭窄によって便秘が引き起こされる場合も少なくありません。
※1:厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計(確定数)」
※4:有村愛子, 出口尚寿, and 西尾善彦. "6. 糖尿病合併症としての消化管~ 糖尿病性胃麻痺, 便秘・下痢." 糖尿病 61.3 (2018): 114-116.
腸の健康を保ち、便秘や下痢を防ぐための対策をご紹介いたします。ぜひ日常の習慣に取り入れてみてください。
過敏性腸症候群の発症原因には、ストレスが深く関連していると考えられています。そのため、ストレスをうまく解消することが過敏性腸症候群による下痢や便秘、腹痛を緩和することにつながるでしょう。
毎日を規則正しく過ごすことで、自律神経が整います。自律神経は全身の様々な機能を調節し、消化機能も例外ではありません。
自律神経が乱れると便秘や下痢の原因となるため、生活リズムを一定にすることが大切です。起床・就寝、食事、入浴など出来るだけ毎日同じ時間に合わせるようにしましょう。
腸の蠕動運動は、睡眠中に副交感神経が優位に働くことによって促進されます。睡眠時間が足りなかったり、睡眠の質が低下したりすると蠕動運動が鈍くなり、便秘がちとなります。
また、胃腸の働きが悪くなることで便の水分が腸に吸収されず、下痢が引き起こされることも。睡眠不足はメンタル面にも大きな影響を与えます。お腹の調子が悪い時は、しっかり眠るようにしましょう。
偏った食生活は、腸内環境を悪化させる大きな要因です。
食事と過敏性腸症候群の関係性について330人の過敏性腸症候群患者と80人の健康な人を対象に行った調査で、炭水化物や脂肪分が多い食品は過敏性腸症候群の患者にとって問題を引き起こすことが分かりました(※1)。
腸の健康を保つためには、毎日の適度な運動習慣が欠かせません。
過敏性腸症候群の大学生101名を対象に、身体活動と胃腸症状の関係を調査したところ、1日あたりの歩数が増加するほど胃腸症状の不快感が減少しました。
4000歩では78%、6000歩では70%、10000歩では48%となり、運動活動が胃腸症状の重症度を軽減することが明らかになりました(※2)。
がんと飲酒の関連性についての研究で日本人と日系米国人を比較したところ、日本人男性の方が飲酒による大腸がんのリスクが高いことが分かりました。
1日あたりの飲酒量が1合以上2合未満で1.42倍、2合以上3合未満で1.95倍、3合以上4合未満で2.15倍、4合以上で2.96倍となっています(※3)。
アルコールを摂取すると、ビタミンB群に含まれる水溶性ビタミンの一つである葉酸が欠乏しやすくなります。葉酸不足は大腸がんのリスクを上昇させるため、多量の飲酒によって大腸がんを発症する可能性が高くなるのです(※4)。
また、アルコールを過度に飲んだ場合、腸の蠕動運動を亢進したり、浸透圧への感受性亢進したりするために下痢と吸収不良を起こしやすくなります。さらに、約1週間の断酒によって下痢から便秘に変わることが多いとされています(※5)。
※3,4,5:横山顕. "アルコールと消化管疾患―消化管がんを中心に―." 日本消化器病学会雑誌 109.9 (2012): 1518-1525.
今回は、便秘と下痢が繰り返し起こるときに疑われる病気や原因などについて解説しました。
便秘や下痢が繰り返し起こる場合、ストレスの蓄積や生活習慣の乱れ、偏った食生活などで腸内環境が乱れている可能性が考えられます。
腸内に善玉菌を増やすためには、食生活の改善とともにビフィズス菌やオリゴ糖などが配合されたサプリメントを摂取すると、腸内環境の改善を実感しやすくなるかもしれません。
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また、便秘や下痢になった際に市販の薬を服用して乗り切る人も少なくないでしょう。
しかし、頻繁に便秘と下痢が繰り返し起こる場合は、重篤な病気が隠れている可能性もゼロではありません。自己判断で市販薬を使い続けるのはやめて、早めに医療機関や専門医へ相談することをおすすめします。