最終更新日:2026.01.19
専門医に聞く『腸内フローラ移植』とは?~メリット、デメリットから費用まで~
城谷バイオウェルネスクリニック(旧・ルークス芦屋クリニック)
院長 城谷 昌彦
■経歴■
東京医科歯科大学(現・東京科学大学)医学部卒業、大学病院や県立病院での勤務を経て、2016年に『ルークス芦屋クリニック』を開設。2025年には移転し、新たに『城谷バイオウェルネスクリニック』を開業。
便秘に長く悩まされている方の中には、自身の腸内環境を一新したいと思ったことのある人も多いのではないでしょうか?そんな中、注目されている研究が、健康な人の便を腸に移植することで腸内細菌叢(フローラ)のバランスを良くするという『腸内フローラ移植』です。
今回は、「腸内フローラ移植」のスペシャリストの中でも日本一の腸内フローラ移植件数を手掛けている、兵庫県の城谷バイオウェルネスクリニック(旧・ルークス芦屋クリニック)院長・城谷昌彦先生に、腸内フローラ移植の現状や今後の展望についてお話を伺いました。
腸内細菌に注目した理由
聞き手:直田(以下、直田)
まずは、基礎的な質問から伺います。そもそも「腸内細菌」について、注視した理由について教えてください。
城谷先生(以下、城谷)
ヒトの場合、おもに大腸に棲みついているのが「腸内細菌」で、「腸内フローラ(腸内細菌叢:ちょうないさいきんそう)」とも呼ばれます。
現代人の腸内細菌のバランスを調べてみると、菌の多様性が減ってきていてバランス悪い方がかなり多いですね。実は、様々な病気の背景には、その腸内細菌のバランスの悪さも絡んでいるということが示唆されるようになってきました。
そのような背景から、食生活や生活習慣を意識して腸内環境を整える生活を心がける、いわゆる『腸活』がブームとなっています。私自身も『腸活』を行うことは有効だと思っていますが、残念ながら『腸活』に取り組んでも、腸内細菌のバランスが一向に改善しない方が一定数いらっしゃいます。腸内細菌のバランスの悪さ(ディスバイオーシス)が限度を超えてしまうと、『腸活』だけでは間に合わないことが多いのです。
他人の便を移植する治療の歴史
直田
腸内細菌のバランスが非常に悪い方にも『腸内フローラ移植』は有効なのでしょうか?
城谷
はい。もちろん『腸内フローラ移植』が必要かどうかのボーダーラインはしっかり見極めた上で実施します。
『腸内フローラ移植』とは、端的にいうと腸内環境が良好な人の便を腸内に移植して、腸内細菌のバランス改善を図ります。
「他人の便を自分の腸に移植する」と聞くと抵抗のある方もいらっしゃると思いますが、その治療の歴史はとても長く、最も古い記録だと西暦4世紀の古代中国で、葛洪(かっこう)という医学者が著した医学書 『肘後備急方』 に、重症下痢患者に健康な人の糞便を水で研いだ汁(黄龍湯:Yellow Soup)を飲ませて治療したという記録が残っています。
日本ではまだ臨床研究中ですが、『腸内フローラ移植』は抗菌薬の使用などで腸内細菌叢(フローラ)が乱れて腸粘膜が傷ついて炎症や潰瘍を起こす、CDI(クロストリジオイデス・ディフィシル感染症)の標準治療法としてアメリカなど複数の国で認められています。
適した便提供者と移植方法
直田
便はどのような人から採取されたものなのでしょうか?
城谷
私が所属している、『腸内フローラ移植臨床研究会』で採用している『腸内フローラ移植』にはドナーバンクがあります。
非常に多様性があるようなバランスの良い菌を持っており、尚かつ、感染症などの厳格な検査もパスした方をドナーとして便を採取し、冷凍保存しています。移植を受ける患者の方には、その中から必要な菌が豊富に含まれた便を選び、時には複数人の方の便をブレンドして、患者の方ごとに最適なオーダーメイドの菌液を作っています。
ネット上では「アスリートの便が優れている」ということもいわれていますが、そうとは限りません。むしろストイックに体を追い込んでいるアスリートは、腸内細菌のバランスが悪いケースも多いですね。逆に、一般の方でも日常生活を快適に過ごし、メンタルが安定して生活されている方が腸内フローラのバランスが良いこともあります。つまり、心身共に安定した生活をしているのかということの方が大事なのだと思います。
また、提供者の年齢も赤ちゃんから高齢の方まで様々です。例えば、赤ちゃんの便だと乳酸菌が豊富であるなど、年齢による菌の多様性の特徴もあります。
順天堂大学の研究では、難病指定疾患である潰瘍性大腸炎において、便の提供者は兄弟の方が効果が高いという考えを示していますが、私たち『腸内フローラ移植臨床研究会』では「菌の多様性」が大切だと考えているので、生活環境の似通った親族ではなく、これまでの生活環境がまったく違う第三者の便を多く採用しています。
また、一部の大学では新鮮便を採用しているところもありますが、冷凍保存便と比較して、移植後の腸内細菌バランスの結果に差はないというデータもあります。移植する便を精密に検査した上で使用でき、より感染症などのリスクを減らせるというメリットがあるため、私たちは冷凍保存便を採用しています。
直田
腸内フローラ移植臨床研究会での『腸内フローラ移植』の方法を、従来の方法との違いも含めて教えてください。
城谷
様々な大学病院で採用されている従来の『腸内フローラ移植』の方法では、事前に2週間抗生剤を服用することで、既存の自分の菌を出来るだけ少なくしますが、それが体の負担となり体調を崩す場合もあります。また、内視鏡を使うため腸内フローラ移植直前には下剤を使い、一時的に絶食する必要もあります。大腸内視鏡検査を受けられたことがある方はお分かりだと思いますが、この下剤を苦痛に思う方も多くいらっしゃいます。
※NanoGAS®‐FMTサービスサイト「腸内フローラ移植とは」を基に作成
「極力、身体的負担を減らす」という目的で、我々腸内フローラ移植臨床研究会では、内視鏡は使わず、代わりに柔らかくて細いチューブを肛門から10~15㎝だけ挿入して菌液を注入するという比較的簡便な方法を採用しているので、前処置や食事制限はありません。本来持っている自身の菌も含めての「菌の多様性」を重視しているので、抗生剤ももちろん使いません。
また、一般的には注入する菌液の調整に生理食塩水が使われますが、我々は水素ナノバブル水(NanoGAS®水)で菌液調整する方法を採用しています。NanoGAS®水には、水素1分子が含まれる微細な泡(直径が1nm未満)が多数含まれています。その泡の小ささから浮力の影響は受けず、移植される腸内細菌の周囲を無数の泡に包んで菌体がマイナスに荷電することで、患者側の免疫機構をくぐり抜けることができるため、腸の粘液層の深いところへ細菌を定着させることを可能にしています。
粘液の深い層へ到達した腸内細菌は、粘液の働きで腸の中を肛門側から口の方向へ向かって移動して虫垂まで到達すると考えられています。虫垂まで到達した細菌は必要に応じてその数を増やして腸内フローラ全体のバランスをより最適なものへと変化させてくれるのです。
(シンバイオシス株式会社・NanoGAS®技術」より)
一般的な水素水というのは炭酸が抜けるように軽くてすぐに抜けてしまい、ペットボトルに入れていてもいざ飲む時には水素が全然残っていないということもあるのですが、我々の採用しているNanoGAS®水は特別な製法で、常温で十年置いていても抜けないように工夫されています。
『腸内フローラ移植』をおすすめする症状
※腸内フローラ移植臨床研究会 糞便微生物叢移植実績|2024年6月5日時点 を基に作成
直田
どのような方に『腸内フローラ移植』を受けることをおすすめしますか?
城谷
私たち『腸内フローラ移植臨床研究会』(代表:田中善医師)において『腸内フローラ移植』は821件行われ(2024年6月5日時点)、その対象疾病の内訳は上記の円グラフになります。
その中でも、臨床研究を通して、今、注目されているのが自閉症のお子さんへの実施です。
一見、関連性がなさそうに思えますが、自閉症のお子さんたちの腸内細菌を調べてみると、ある程度の多様性はあるのですが、腸内細菌のバランスが非常に特異的なお子さんが多いです。そういったお子さんたちにも『腸内フローラ移植』は有効な治療なのです。
また、がんに関していうと、すでに海外ではデータは出ているのですが、ある免疫チェックポイント阻害薬(免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにする薬)を使う際に、特定の腸内細菌が腸内に存在する方が治療の効果が高まるといわれています。そのため、日本の大学病院でも事前に腸内細菌のバランスを調べ、必要に応じて便移植によって特定の腸内細菌を増やしてからがん治療を行うという臨床研究が行われているところです。腸内フローラ移植によって直接がんが治るというわけではありませんが、がん治療の手助けになる可能性を秘めています。
直田
お話に出た『自閉症』ですが、自閉症の症状と腸内環境の悪化にどのような相関関係が考えられますか?
城谷
例えば、甘いものしか食べないといったような、食へのこだわりが強くて偏食のお子さんも多いので、腸内フローラのバランスは最適な状態からどんどん離れてしまいます。その結果、便秘や下痢、過敏性腸症候群のようなお腹のトラブルを抱えたお子さんも多くなってしまうのです。
我々の解析では、自閉症の方の腸内細菌バランスに特異的な特徴があることは確かだと言われています。例えば、普通ではあまり見られないような菌が出てきたり、本来は増えるはずのない菌がすごく増えていたり、逆に、いてほしい菌がいなかったりします。そのような場合にこそ、「腸内フローラ移植」はより効果的であると思われます。
直田
腸内フローラ移植を受けられる年齢的な制約はありますか?
城谷
特にありません。私たちの患者さまでは下は2歳から、高齢の方では70代半の方までいらっしゃいます。
直田
1度の腸内フローラ移植で、効果はどのくらいの期間持続するのでしょうか?
城谷
1度受ければ半永久的に持続します。ただ、腸内フローラ移植さえすればいいというものではなく、その後の食事療法がすごく重要になります。被移植者は、定着した菌がうまく働ける環境を提供し続ける必要があるからです。
腸内フローラ移植をきっかけに、こだわりの強かった偏食から食の好みが変わることはよくあります。特に、素直な子供たちの方がすんなりと偏食からバランスの良い食生活に変わることは多いのです。年齢は若ければ若い方が効果が高い印象はあります。
しかし、大人になると脳が覚えてしまっている食習慣をなかなか離脱できないケースがあり、腸内細菌にとって良い食生活に変えることに苦労しがちです。「お酒をやめられない」などもそうですね。そういう方は『腸内フローラ移植』後も、それがうまく増えて働ける環境までなかなか持っていけないので、定期的に移植を受ける選択をされる方もいらっしゃいますね。
今のご時世、スーパーへ行っても加工食品や精製糖や甘味料たっぷりの商品も多く、本当に「腸内環境にいい食事」を常に実践するのはハードルが高いと思います。
そのため、腸内細菌のサポートという目的で定期的に追加移植されるのも選択肢の1つだと思います。
ただ、2年前に自閉症のお子さんたちへ「週1回・6週間連続で濃度を変えて移植をする」というプロトコルで臨床研究を実施した際、移植直後に「穏やかに生活するようになった」と話される親御さんは多かったですし、その後、臨床研究から2年経って腸内細菌の状態を検査してみると、ほとんどのケースが追加移植をすることなく、症状は改善したままでフローラバランスも維持できていました。
この結果から、食事療法も並行して実施できれば、腸内フローラ移植の基本は「6回の移植」で1セットと考えています。
実は、自閉症のお子さんなど、腸内フローラ移植を必要としている方々は酸化ストレスが高くなっていることが多いのです。特に腸管のバリア機能の酸化ストレスが高いということが想定されているので、前述のNanoGAS®水によってその酸化ストレスをきちんと消去しながら菌を入れることが非常に重要だと考えています。
過敏性腸症候群にこの治療が有効かどうか、「効く」という論文もあれば「効かない」という論文もあって、まだ世界的に非常に議論の多いところではありますが、我たちの臨床研究では治療を受けられた6割以上の方は何かしらの改善症状が見られているので、有効な治療法であると確信しています。
現在、我々のNanoGAS®水を使った手法での臨床研究結果を論文としてまとめているところです。その論文が発表されれば、より注目が高まると考えています。
メリット・デメリットや費用
直田
『腸内フローラ移植』において、現在の課題はありますか?
城谷
大学病院における『腸内フローラ移植』は基本的に「研究の一環」として行うため、治療費の自己負担は少ないか、原則無料です。しかし、対象の疾病は主に「再発性CDI(クロストリジオイデス・ディフィシル感染症)」と限定的で、しかも前出のように身体的負担も少なくありません。
一方、我々『腸内フローラ移植臨床研究会』の実施する『腸内フローラ移植』は、改善の可能性のある疾病として潰瘍性大腸炎や自閉症など幅広く、身体的負担も極力少なく受けられますが、私の医院では6回の移植を1セットとして治療費を約180万円に設定しています。値段は高く感じられる方が多いかと思いますが、安全性の担保やNanoGAS®水の開発運営にかなりのコストがかかるので、治療費がどうしても高額になってしまいます。
それぞれの手法にメリット・デメリットがあり、悩ましいところです。
先生からメッセージ
直田
それでは最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
城谷
「皆さん!この治療を受けるのがいいですよ!」ということではなく、このような治療を受けなくても腸内細菌の多様性がちゃんと維持できるような社会にすることが目標だと思っています。
なぜ『腸内フローラ移植』が必要になったのかというと、それは現代人の食習慣の変化が大きな原因でしょう。どのような菌のついた食材を食べてるか―今の加工商品はほとんど無菌、むしろ抗菌作用のある物質を使った食材を食べたりすることで、衛生上はいいかもしれませんが、「腸内細菌の多様性を増やす」という観点ではむしろ逆効果です。本来は、菌が人の体内と自然界を循環して、菌の代謝産物もしっかりと私たちに関与して相互作用を起こしながらいい腸内環境を保っていたのに、そのメカニズムが崩壊している。現代の社会は清潔になりすぎていると私は考えています。
私は、この「菌の循環」を取り戻すための過渡期の治療として『腸内フローラ移植』を位置づけています。
私自身、若い頃に潰瘍性大腸炎を患って大腸を全摘出していますが、そのような治療を受けないといけない症例はまだまだあります。『腸内フローラ移植』が治療の選択肢の1つとして標準化されて、難病で困ってらっしゃる方がそうした結果を回避することを手助けできることを目指しています。
直田
城谷先生、ありがとうございました!
現代人の多くが悩みを抱える腸内環境の改善に、既存の『腸活』に加えて、『菌を直接移植する』という新たな方法でアプローチされているお話はとても興味深かったです。
中でも、腸内環境の改善が自閉症症状の緩和へ繋がるという研究には、多くの期待が寄せられていることでしょう。
今後の新たな研究結果の発表を、心待ちにしております。
城谷バイオウェルネスクリニック
院長 城谷 昌彦
■経歴■
東京医科歯科大学(現・東京科学大学)医学部卒業、大学病院県立病院での勤務を経て、2016年に『ルークス芦屋クリニック』を開設。2025年には『ルークス芦屋クリニック』を移転し、新たに『城谷バイオウェルネスクリニック』を開業。
■資格■
日本内科学会認定医/日本消化器病学会専門医/日本消化器内視鏡学会専門医/日本医師会認定産業医/腸内フローラ移植臨床研究会専務理事/サイモントン療法認定カウンセラー/NPOサイモントン療法協会理事/杏林予防医学研究所細胞環境デザイン学認定医/臨床分子栄養医学研究会認定医/エリザベス・キュブラーロスのワークショップ/(旧LDTワークショップ)公認スタッフ
■所属学会■
日本内科学会/日本消化器病学会/日本消化器内視鏡学会/日本統合医療学会/日本抗加齢医学会/臨床分子栄養医学研究会/臨床水素治療研究会/日本病巣疾患研究会/腸内フローラ移植臨床研究会/日本先制臨床医学会/International Plant-Based Nutrition Healthcare Conference会員
聞き手
グリーンハウス株式会社
直田亨 / ライター歴10年
出版社で10年、病院広報で10年勤務後、健康食品業界に転職。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の疾病の診断や治療を意図するものではありません。症状や健康面にご不安がある場合は、必ず医療機関を受診し、専門の医師による診断と指導をお受けください。
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