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最終更新日:2026.04.06

再発しやすい痔を止めよう!

再発しやすい痔を止めよう!

大阪肛門科診療所

副院長 佐々木 みのり

■経歴■

1994年 大阪医科大学を卒業後、大阪大学皮膚科学教室に入局。その後4年間、大阪大学附属病院、大手前病院、東京女子医大病院などで皮膚科医として勤務した後、1998年に肛門科医に転身。同年7月には日本初となる「女医による肛門科女性外来」を開設。

現在は、1921年創立、100年以上の歴史を持つ大阪肛門科診療所の副院長を務める。また、元皮膚科医という経歴を持つ異色の肛門科医として、同業の医師を対象に多数の講演を行っている。

日本人の3人に1人は罹った経験がある、と言われるほど人知れず悩む方が多いとされる痔。

その特徴で特に厄介だと言われるのが1度良くなっても繰り返してしまう“再発”の多さです。痔を繰り返して“万年痔主”にならないためにはどうすればいいのでしょうか?

そこで今回は、肛門科女医の草分け的存在で、創立100年以上の歴史を持つ大阪肛門科診療所の副院長・佐々木みのり先生に、相互に悪影響を与え合う、痔と便秘のメカニズムについてお話を伺いました。

恥ずかしさに隠れた痔持ち患者

「日本人の3人に1人は痔の経験者」という数値は、主に痔特有の症状(出血、痛み、痒み、脱出感など)が発生して、病院受診に至った人数から医師が推定したものだと考えられます。

しかし、ある企業が行った「女性の痔と治療に関する実態調査」(※)によると、70%以上の女性は痔の経験があり、ほぼ100%の人が痔を治したいと思っているにも関わらず、約6割は病院を受診していないという結果が出ているのです。

その理由は、「医師にお尻を見せたくない」「周囲に自分が痔だと思われたくない」といった羞恥心から、医療機関への受診をためらう患者が多いからだと考えられるでしょう。

女性の痔と治療に関する調査

※出典「ウンログ調べ」

肛門疾患のほとんどを占める“3つの痔”

そもそも痔とは、肛門やその周辺に生じるトラブルのうち、がん以外のすべてのものを指すのです。

肛門にかゆみがある「肛門そう痒症」や、近年では温水洗浄便座での洗いすぎによる「温水便座症候群」なども、広い意味では「痔」に含まれますが、3大肛門疾患として大別されるのが、いぼ痔(痔核)切れ痔(裂肛)あな痔(痔ろう)です。

ある病院の症例分析(※)によると、肛門疾患の新患5,447例のうち、疾患別頻度は、内外痔核が62.8%、裂肛が24.9%、痔ろうが6.5%であり、3大肛門疾患が全体の94.2%を占めました(重複あり)。

痔は命に係わる疾患ではないものの、肛門は日々の排泄に深く関わるために日常生活へ影響を及ぼし、QOL(生活の質)を低下させる要因となり得るのです。

肛門疾患の割合

辻順行, and 家田浩男. "肛門専門病院における新患 5,447 人の分析―特に 3 大肛門疾患と裂肛症例の分析―." 日本大腸肛門病学会雑誌 66.7 (2013): 479-491.

痔を引き起こす最大の原因は「便秘」

3大肛門疾患の中でも発生率の高い、いぼ痔(痔核)と切れ痔(裂肛)ですが、発症する最大の原因は、便が滞って出口(直腸・肛門)に便が溜まる「出口の便秘」であると考えられています。『便秘が痔の最大の原因となる』とはどういうことなのでしょうか?

さらに厄介なのは、この排便トラブルによって、いぼ痔と切れ痔は繰り返してしまうこと。では、どうすれば痔の再発を防ぐことができるのでしょうか。


ここからは、「便秘が痔の最大要因となる」理由を探りながら、痔の改善・再発対策に迫っていきましょう。

硬い便で痔が育つ!ってホント!?

3大肛門疾患の中でも、特に便秘と深い関係なのが切れ痔(裂肛)といぼ痔(痔核)。 相互に悪影響を与え合う痔と便秘のメカニズムについて、肛門科専門医の佐々木みのり先生に話を伺いました。

痔を作るのは 「出口の便秘」

便秘は大別すると『結腸(S状結腸より上側の大腸)が原因の便秘』と、『直腸や肛門が原因の便秘』の2つに分けて考えることができます。後者は、俗に「出口の便秘」と呼ばれ、痔の原因となるのです。

直腸や肛門は排泄のための臓器であって、便を貯めておくための臓器ではありません。つまり、直腸や肛門は便が通っている時以外は、いつでも、いかなる時でも便がない状態が正常なのです。ところが「出口の便秘」とは、便がないはずの直腸や肛門に便が存在している状態なのです。

大阪肛門科診療所 副院長 佐々木 みのり

便の硬さは問題ではありません。

便が硬くても、柔らかくても、直腸や肛門に便が存在していれば、全て「出口の便秘」とみなします。

大阪肛門科診療所 副院長 佐々木 みのり

では、なぜ「出口の便秘」は起こるのでしょうか。一番の原因は「便意を我慢すること」にあります。

便意の仕組み

通常、S状結腸を通過した便が直腸に流入すると、その刺激は脳に伝えられます。この刺激が『便意』となって、人間は自然に排泄行動を取るのです。

しかし、排便ができないシチュエーション等が原因で排泄行動を取らずに便意を我慢すると、便は直腸に残存することになります。はじめのうちは排便したいのを我慢しているのですが、便意は通常 15分程度しか持続しないもの。

つまり 15分ほど経過をすると、便意は消失して排便したい感覚はなくなってしまい、出口付近に便を残したままで長時間行動できる状態になります。これを繰り返していると次第に直腸の感覚が鈍くなり、さらに大量の便に「耐えられる」肛門になってしまいます。

このようして「出口の便秘」が常態化してしまうのです。

出口の便秘

「出口の便秘」が 痔をつくる理由

タイプ1 切れ痔

「出口の便秘」で直腸/肛門付近に翌日まで残った便は、その場で水分が吸収されて硬くなります。この硬い部分で物理的に肛門を直接傷つけてしまうことで、切れ痔(裂肛)が起こります。

切れ痔は、通常は痛みや出血を伴いますが、慢性化すると出血がほとんど見られないケースもあります。切れ痔による炎症を慢性的に繰り返してしまうと、切り傷の上側に肛門ポリープ、下側に見張りイボと呼ばれる皮膚のたるみを形成します。

また、傷が治る過程で肛門狭窄(肛門が狭くなる)を起こすことも多く、これらによって排便時にさらに痛みや出血を起こしやすくなってしまいます。

切れ痔の理由

タイプ2 いぼ痔

いぼ痔には、急激な腫れや強い痛みを伴う急性タイプと、無痛または鈍い痛みの慢性タイプがあって、どちらも原因は「出口の便秘」です。

慢性タイプのいぼ痔は、出口に残った便が「重し」となって肛門に負荷をかけて日常的なうっ血が生じることが主な原因。さほど大きくはないうっ血でも、365日24時間負荷がかかり続けると大きな負担となってしまうのです。その結果、肛門の周辺の繊細な肛門クッションは破壊されて静脈叢は拡張、いぼ痔が成長することになります。

大阪肛門科診療所 副院長 佐々木 みのり

一方、急性タイプのいぼ痔の原因として昔から挙げられるのが排便時の強いいきみではありますが、自院での急性タイプのいぼ痔の症例では、ほぼ全てで潜在的な出口の便秘とこれによる日常的なうっ血がみられるのです。

よって、いきみは急性タイプのいぼ痔のきっかけに過ぎないのかもしれません。

大阪肛門科診療所 副院長 佐々木 みのり

また、洋式トイレは肛門部への直接的な圧迫がないので、痔にはなりにくいと誤解されていますが、米国の学術誌『PLOS One』に掲載された2025年の研究(※)によると、便座でスマホを使う人は痔になるリスクが約46%高いという報告があります。これはスマホ自体が問題なのではなく、トイレに座る時間が伸びることが痔の悪化の要因になると考えられています。

実は、便座に座ること自体が肛門にとっては負担であって、痔のリスクといえるのです。

Smartphone use on the toilet and the risk of hemorrhoids

いぼ痔(内痔核)の 進行4段階

前述の通り、いぼ痔には急性タイプと慢性タイプという分類の他に、いぼができる場所によって外痔核と内痔核という分類も存在します。

急性タイプのいぼ痔は血栓によってできて、外痔核部分に起こることが多いです(血栓性外痔核)。内痔核部分にできる急性タイプは血栓性外痔核よりも頻度が少ないですが、大きく腫れて激痛を伴います。腫れは内痔核では収まらず、内痔核と外痔核がつながった状態(嵌頓痔核)となってしまうことが多いです。

また、慢性タイプの外痔核は通常は痛みがないので、皮膚のたるみと認識される場合が多いのです。

ゴリガ―の臨床病期分類1 ゴリガ―の臨床病期分類2

これらに対して、慢性の内痔核は肛門部のクッション組織が破壊されてしまい、同時に静脈叢が怒張して膨らみを作ります。痛みは無いか鈍痛程度で、主な症状は出血です。

進行した内痔核は内外痔核になるものが多くて、Ⅲ度とⅣ度の内痔核・内外痔核は「脱肛」と呼ばれます。

痔は出口の便秘を慢性化させる

痔を形成する原因となる出口の便秘ではありますが、逆に痔になることで、出口の便秘がさらに悪化する場合もあるのです。

負のスパイラル

痛み・不便による排便の先延ばし

痔の痛み・痔による生活の不便がたびたび起こると、これを避けるために排便を先延ばしにして、都合の良い時間まで我慢してしまいがちになります。

出口の便秘の悪化

排便を先延ばしすることで出口の便秘の悪化を招いて、うっ血は悪化、硬便はさらに硬く大きくなってしまいます。

痛み・不便による排便の先延ばし

痔の痛み・痔による生活の不便がたびたび起こると、これを避けるために排便を先延ばしにして、都合の良い時間まで我慢してしまいがちになります。

痔の悪化

うっ血の悪化はいぼ痔の、硬便の体積と硬さの増大は切れ痔の進行に繋がります。こうして症状が悪化することで、さらに排便の先延ばしが顕著になってしまいます。

“負のスパイラル”が完成して便秘は慢性化

痔と便秘はセットで治す!

痔の手術後の再発率を調査した論文(※)によると、手術で痔の治療をしたとしても、排便障害が未解決の患者は痔が再発する可能性が高く、外科的治療に満足できない可能性が高いことが報告されています。

つまり、「便秘」という根本の原因が残っていれば、肛門への負荷は継続して、一度は治った痔も容易に再発してしまうということなのです。一度でも痔になったことがあるならば、肛門のケアに加えて痔の原因である便秘への対策をしなければなりません。

便秘対策・痔の再発予防に、まずは排便習慣や肛門環境を整えることが重要。加えて、食習慣から見直し、再発の連鎖を根本から断ち切ることも健康なお尻を守る鍵となります。

Li Q, Ghoorun RA, Li L, Zhang H, Zhang D, Qian H, Ren DL, Su D. Correlation Between Poor Defecation Habits and Postoperative Hemorrhoid Recurrence. Front Surg. 2022 Jun 17;9:930215.

痔を再発させない生活習慣 尻トレ

痔を繰り返す“負のスパイラル”から抜け出すために、スッキリ出す生活習慣を手に入れましょう!

排便習慣

間違った排便習慣は痔の原因に。肛門に負担をかけない排便行動を心掛けましょう。

排便タイミングの固定

大腸が反射的に便を送り出す「胃結腸反射」が起こりやすい起床後や食後にトイレに座ることを習慣づけ、腸に排便リズムを記憶させることで自然な便意を回復させましょう。

姿勢とリラックス

肛門周りの筋肉が緩みやすい前傾姿勢や足台の使用で直腸と肛門の角度を緩やかにして、いきまずにスムーズな排便を促します。

スムーズな排便姿勢

排便時間・いきみの管理

トイレ滞在時間は原則5分以内。トイレに座るのは明確な便意を感じた時だけにして、無理に強くいきむことは避けましょう。

肛門環境

肛門周りの清潔や血流を保って、 痔ができにくい環境を整えましょう。

過度に洗わない

そもそも完全排便できていればお尻は洗わなくても便は付着しません。肛門を洗うと皮膚のバリア機能を破壊し肛門に負担をかけます。洗わなければきれいにならない人は「出口の便秘」である自覚を持ちましょう。

どうしても洗う場合

血流の改善

おしりの保温や湯船で温まることで肛門周囲の血流改善に役立ちます。また、長時間の座位は避けて、定期的に姿勢を変える・歩行するなど血行を促しましょう。

食習慣

せっかく出口の便秘をケアしても、食事内容が悪ければ排便による負担は続きます。出口の便秘のケアと食習慣の見直しはぜひセットで。

適正な便の硬さの確保

ブリストル便形状スケール

理想はブリストルスケール3〜4型。硬便は裂肛や痔核を誘発し、軟便・下痢は肛門刺激や炎症を助長します。

水分・食物繊維の最適化

水分摂取に加え、水溶性食物繊維を摂ることで、肛門に優しい柔らかい便を作りましょう。

水溶性食物繊維

腸内環境の改善

菌の働きで作られた「発酵食品」や、善玉菌である「プロバイオティクス」、善玉菌のエサとなる「プレバイオティクス」によって腸が整い、便性の安定化と排便リズムの回復が期待できます。

腸内環境を改善する成分

結論! 痔の再発防止には“良い排便”がカギ!

いかがでしたでしょうか?

便秘で硬化した便が物理的に肛門を傷つける切れ痔や、出口付近に溜まった便が重しとなってうっ血することで生じるいぼ痔など、痔と便秘の密接な関係を分かっていただけたと思います。

互いに悪化する原因となる痔と便秘なので、痔を治したとしても、便秘の症状が残っていれば容易に再発してしまいます。どちらか一方ではなく、セットで治療することが大切!

また、痔の再発を防止するカギは、肛門に負担をかけない排便行動を心掛け、肛門周りの血流などの環境を整え、便の元となる食習慣に気をつけることで“良い排便”を身につけることです。

日々の生活習慣の改善に取り組んで、健康なお尻を手に入れましょう!

大阪肛門科診療所 副院長 佐々木 みのり

大阪肛門科診療所

副院長 佐々木 みのり

■経歴■
1994年 大阪医科大学を卒業後、大阪大学皮膚科学教室に入局。その後4年間、大阪大学附属病院、大手前病院、東京女子医大病院などで皮膚科医として勤務した後、1998年に肛門科医に転身。同年7月には日本初となる「女医による肛門科女性外来」を開設。

現在は、1921年創立、100年以上の歴史を持つ『大阪肛門科診療所』の副院長を務める。また、元皮膚科医という経歴を持つ異色の肛門科医として、同業の医師を対象に多数の講演を行っている。

■資格■
日本大腸肛門病学会認定大腸肛門病専門医
日本大腸肛門病学会認定大腸肛門病指導医(ⅡB領域=肛門科領域)

■所属学会■
日本大腸肛門病学会

ライター 直田亨

聞き手

グリーンハウス株式会社

直田亨 / ライター歴10年

出版社で10年、病院広報で10年勤務後、健康食品業界に転職。

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の疾病の診断や治療を意図するものではありません。症状や健康面にご不安がある場合は、必ず医療機関を受診し、専門の医師による診断と指導をお受けください。

本記事の内容に起因するいかなる結果についても、筆者および運営者は責任を負いかねますのでご了承ください。